有機物が微生物によって分解される変化は、「腐敗」か「発酵」のどちらかに分けられます。食べ物に腐敗が起こると、変化した食べ物は人体に有害で、嘔吐、下痢、腹痛といった症状を引き起こします。日常会話では「食べ物が腐る」とか「傷む」という言い方をします。
これに対し、食べ物に特定のカビ、細菌、酵母菌などが作用して、食用に適したものに変化すると、それは「発酵」と呼ばれます。発酵した食べ物は味や匂いが変わるので、好き嫌いも顕著になります。しかし、グルタミン酸などのうま味成分も増えているので、おいしくなったと感じることも多いです。また、悪い菌の増殖を抑制するので、長期保存が可能になります。
発酵は自然に発生するので、私達の祖先は発酵した食べ物を食べたり、材料を発酵させたりして食べたり、保存したりしてきました。その歴史は諸説ありますが、数千年前にワインが作られていた記録が残っています。また、遊牧民が食べていたヨーグルトも古くから食べられていた発酵食品です。その他の代表的な食品には、チーズ、納豆、キムチ、醤油、味噌、酢などがあり、日本酒、ワイン、ビールなどの酒類、パン、鰹節なども発酵食品です。ヨーロッパではザワークラウトやアンチョビなどが有名な発酵食品です。また、意外かもしれませんが、アイスクリームやケーキなどに使うバニラビーンズやチョコレートの原料のカカオも発酵食品です。
発酵食品は日本の食文化の大切な一部分です。日本の気候風土は、比較的温暖で湿度が高く微生物の活動が活発になります。腐敗菌やカビなども繁殖しやすい反面、私達の役に立つ微生物も活動しやすい環境だと言えます。日本人は昔から発酵を研究、利用し、色々な発酵食品を作りました。
カビの一種である麹菌の作用で造られるのが日本酒、醤油、味噌などです。日本酒は蒸した米に麹菌をつけて、発酵させます。麹菌の種類、米、気温などの醸造環境によって味が変わり、日本各地で多くの地酒が作られています。全国に1400以上の酒蔵があると言われています。(国税庁平成28年度調査)日本酒はワインと違って、何年も寝かせることはしないので、毎年新しい日本酒ができます。(注1)蒸した大豆と塩を混ぜ、麹菌で発酵させると味噌や醤油ができます。日本国内には多くの味噌と醤油が製造、販売されています。2021年の統計では全国で1283件の味噌蔵と1383件の醤油蔵が登録されています。日本酒と同様、地方ごとに味も香りも大きく違うので色々な種類を試して、好きな味を見つけてください。
注1:数は少ないですが、古酒と呼ばれる熟成させた日本酒もあります。
乳酸菌も有益な細菌の一つです。最も身近なものはヨーグルトとチーズでしょう。どちらも生乳を乳酸発酵させたものです。また、日本の飲み物として有名な「カルピス」(海外での名称はCALPICO)も乳酸発酵を使っています。日本中どこにでも見られる漬物は色々な野菜に塩を混ぜたものを乳酸発酵させて作られています。代表的な材料は大根、かぶ、なす、きゅうり、白菜などですが、基本的にはどんな野菜でも漬物にすることができます。日本全国にたくさんの種類のご当地漬物がありますから、是非調べてみてください。寿司の始まりは乳酸発酵をさせた魚肉でした。今でも、なれ鮨という形で残っています。
酵母菌(yeast)は糖をアルコールと二酸化炭素に分解する微生物です。ビール、ワイン、日本酒など色々な酒類を造る時に活躍します。麦芽に酵母が働いて、ホップの味が加わるとビールになります。甘いブドウのジュースを発酵させるとワインができます。また、パンの生地が膨らむのは酵母菌が作り出している二酸化炭素のせいです。
酢酸菌はエタノール(アルコール)を分解して、酸味がある酢を作ります。酢は果物や穀物から作られます。味のよさだけでなく、腐敗菌の活動を抑えるので、食物を保存する効果があるので、冷凍や冷蔵の技術がなかった時代の保存方法として、昔から使われていました。ワインを暖かいところで保存すると酢になってしまい、美味しくなってしまうのも酢酸菌の働きです。寿司などに使う米酢はまず麹菌でデンプンをブドウ糖にし、酵母がアルコールにし日本酒ができます。それに酢酸菌を加えて発酵させて酢にします。ですから、酢はできるまでに、3回発酵していることになります。
納豆菌は名前が示すように、皆さんがよく知っている納豆をつくる菌です。蒸した大豆を藁に包んで発酵させます。ネバネバや独特の匂いが特徴ですが、日本人の間でも好き嫌いがある発酵食品の一つです。しかし、納豆は栄養価が高く、健康にいい食品でもあります。近年は納豆も色々研究されて、匂いが強くない食べやすいものも作られているので、是非試してみてください。
日本のビールはラガーと呼ばれる種類が中心でしたが、1994年に規制緩和があり、マイクロブルワリーでもビールの製造販売が可能になりました。それに伴い、色々な種類のビールが生産されるようになりました。
発酵食品や発行調味料を使うと素材の味だけではない、色々な味が楽しめるようになります。体を助け、健康にいい発酵食品を試してみてください。
皆さんの国の発酵食品について調べて、レポートしてください。
1 東アジアと東南アジアの気候も温暖で湿気が多いです。ですから、発酵食品がたくさん使われています。代表的なものは魚醤です。魚を塩漬けにして、発酵させた時にできる汁(液体)です。アジアの国にはたくさんあるので、どんなものがあるか調べてみましょう。
2 ヨーロッパの発酵食品にはどんなものがありますか?調べてみましょう。
3 食物を保存する方法大きく分けて四つあります。乾燥、塩分、発酵、燻煙です。
乾燥、塩分、燻煙を使った食べ物にはどんなものがあるか調べてみてください。
3 たくさんの種類がある味噌の分け方には大きく三つの方法があります。
1.米味噌・麦味噌・豆味噌
2.甘口・辛口
3.白味噌・赤味噌
それぞれ、どう違うか調べてみましょう。
5 醤油は大きく五つの種類に分けられます。(JAS規格)
濃口醤油・淡口醤油・再仕込醤油・溜醤油・白醤油
生産量が一番多いのは濃口醤油で、全体の約80%を占めています。それぞれがどんな醤油が調べてみましょう。
6 カビを使った発酵食品を調べてみましょう。
7 麹菌について、調べてみましょう。
江戸文化に造詣深い筆者による日本の食に関するコラムです。